中央アフリカ共和国で考えた「やさしさ」とは?

戦場フォトグラファーとして活躍する青木弘氏と一緒に「やさしさ」とは?を考えてみました。

中央アフリカ共和国の少女 Photo by Hiroshi Aoki

ルミコ:中央アフリカ共和国を戦場フォトグラファーとして撮影を続ける、青木弘さんと一緒に、「やさしさ」とは?を考えていきます。まずは、「1枚の写真が世界を変える」 と仰ってますがそれはどういうことですか?

青木:写真家になろうと決めたのが22歳の時。 それから約20年、今も相変わらずこの職業を続けています。 もしかしたら周りから見ればすごく大変な仕事で、自分にしかない貴い志と広い視野を持つ特別な人間だと思われているのかもしれないですね。

しかし僕自身、そんなことはないのです。若い頃の「ただの好奇心」に突き動かされて、現在もまだその衝動に突き動かされ続けているだけなのです。もし経験や年齢を重ねることによって生まれた想いがあるとしたら「見てしまった責任」でしょうか。 2002年〜パレスチナ、イラク、アフガニスタンなどの中東エリアの紛争を見てきまして。 そこでは写真家だけでなく、ジャーナリストやTV、新聞記者などが競って自分だけのスクープを求め彷徨っていました。日本からだけでなく、世界各国から集まってきたメディアは、伝えるべき悲しいニュースとしてその国の日常を切り取って行くということを続けました。自分の撮った写真でそのニュースが伝わり「1枚の写真が世界を変える」 ことを痛感しました。

アフリカ取材へ切り替えたのは2006年。 中東で出会うメディアの連中たちと自分は違うと思いたくてアフリカへ目を向けたのです。 言い方は正しくないかもしれませんが、お金になる(記事になる)中東を諦め、リスクだけ高くリターンの見込めないアフリカへ。 誰も行きたがらないアフリカ内戦の取材と聞き、なんだか自分にぴったりなんじゃないかとアフリカに方向転換を決めました。 

ルミコ:「アフリカを愛しアフリカに愛された写真家」の青木弘の誕生ですね!

青木: 世界中から無視し続けられているアフリカの現実を知れば知るほど、僕は写真家としての使命を考えるようになりました。 これこそがまさに写真なんじゃないか、と。 そんな僕が現在、取材を続けている国が中央アフリカ共和国です。 その名の通りアフリカ大陸のど真ん中に位置するこの国は2022年現在も内戦状態にある国です。その原因はキリスト教徒とイスラム教徒との宗教戦争と言われていますが、その根っこにはこの土地で採れるダイヤモンドやゴールドが複雑に絡み合っています。 

中央アフリカ共和国で2017年から取材を続けている僕は、西側エリアを実行支配するキリスト教徒の民兵組織のカリスマリーダー・リチャードと出会いました。 2012年、リチャードはかつてイスラム教一色に染まったこの国では迫害される弱者でした。彼自身、イスラム教系武装組織に家族を殺され、すべてを奪われています。たった一人で命からがら逃げ込んだジャングルの森の中でリチャードはキリスト教徒の人々のために戦う決意をしたそうです。

そんなリチャードの元に民衆が集い、武器を持ってキリスト系民兵組織を結成。 戦い続け勝利し続け、2014年ようやくリチャードたちキリスト教徒は首都と自分たちのエリアを取り戻しました。 そんなリチャードに大統領から一本の電話が。 「武装解除をしてほしい」 リチャードは悩みましたが大統領の要求に応え、自身とこのエリアの部隊は武装解除をしました。 まだ現在も戦闘が続いているのにもかかわらず、です。 さらにリチャードが首都を奪還し、一番最初にしたことは、そこで暮らすイスラム教徒の一般市民の安全を確保することでした。 首都を取り戻し、凶徒と化したキリスト教徒の一般市民たちは真っ先に目の前にいる武装していないイスラム教徒たちを攻撃し始めたのです。 「戦争とは?」、こんな負の連鎖が生み出した感情と報復攻撃なんだろうと思います。 もちろん間違った行動ではありますが、同じ人間として解らなくはない部分でもあります。 当事者であるリチャードはそんな負の連鎖を自ら断ち切ったのです。

 自身の土地の中に、自分の私財を使って彼らのために避難民キャンプを作りました。 そしてこのキャンプは現在も国連平和維持軍のよって守られている。 こんなエピソードのリチャードの行動を「やさしさ」というにはあまりも的を得ていないのかもしれませんが、なんとなく感じるのは「やさしさ」とはお節介なんじゃないかと。そして間違いなく言えるのは「やさしさ」とは行動であるということ。  


ルミコ:青木さんにとって「やさしさ」とはお節介で有り、行動である、と!

青木:リチャードしかり、他の外国人もそうだが日本ではあまり感じることのできない「やさしさ」を海外では感じることが多いです。 それはお節介さんがわざわざ他人のために行動してくれてるからなのです。 日本人は表現下手だとも言われますが、考えすぎてしまって動けないだけじゃないだろうか。 いくらやさしい心の持ち主だったとしても何も行動しなければその「やさしさ」は誰にも伝わらない。 もちろん中には何もしないことが「やさしさ」ということもあるのしょうが、僕はやっぱり誰かのために汗を流せる人が本当にやさしいんだと思います。 アフリカに通うようになって約15年。 いつも僕は現地で彼らの背中からいろんなことを学ばさせてもらっています。 僕も彼らのように、誰かにとっての「やさしいお節介さん」になりたいと心から思っています。

『やさしさとは、行動。』青木弘

SPEAKERS

  • 青木弘(戦場フォトグラファー)

    イラク、アフガニスタンなどの中東地域取材を経て、2006年からアフリカ紛争地取材に専念。PEACEis__projectとして、平和とは何かを、アフリカの紛争を写真とストーリーで伝え続けている。

  • ルミコ・ハーモニー(LITTLE ARTISTS LEAGUE)

    LITTLE ARTISTS LEAGUE共同代表、アーティスト、アクティビスト。フィンランド人と結婚し三児の母になったことをきっかけに、気候変動問題をはじめとする社会問題を意識するように。オーガニック展でのこどもの絵のコンテストの審査員を務めるなど、アートを通じて社会課題を解決するアプローチをしています。