日本とアメリカの狭間で考えた「やさしさ」とは?

アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、サードカルチャーキッズとして日本で育ちアメリカでの大学生活を経て、自身が経験してきたアメリカの社会問題やグローバルマインドを子供たちに知ってもらうために活動しているモデル、マイケル・クリストファーにお伺いしました。

ミックスとして、モデルとして

子供の頃から日本で生活する中で、見た目で判断され英語で話しかけられるシーンも少なくはなく、自分のアイデンティティについて考える機会が多くありました。アメリカの大学に進学してからまずインターナショナルプログラムに入ったのですが、アジア人の友人の中にいると感覚が似ていたり自分はアジア人なのかなと感じていました。

その後社会学部で学び始めた頃に差別やさまざまな社会問題があることを知り、アメリカ大統領選をきっかけにそれを肌で感じることが増え、白人としての意識を持つようになりました。

自分のアメリカ人としてのアイデンティを知るためにいつかアメリカに行こうと決めていたので、大学で渡米し、アメリカ人として生活したことで自分自身の日本人として、アメリカ人として、ミックスとしてのアイデンティティが確立できたと実感しています。この経験が、自分が誰かを自覚する大きなターニングポイントになっています。

アメリカ人ではあるけれど、日本人でもある自分のアイデンティティを改めて考えた時に、白人として白人社会や歴史を学び、生活の中でさまざまな問題に触れるうちに自分は日本人だという強い自覚が生まれ、日本人としてのアイデンティティを確立しながらマイノリティを持つ立場から、どちらの社会にも関わり何かできることはないか考えるようになりました。

日本で生活しているとアメリカで感じた社会問題や文化を感じることが少なく、同じような環境で育つ子どもたちに、自分が経験したことを自分の言葉で伝えていくために活動を始めました。モデルとして表に出る活動を通して同じ環境で育った子供たちにとってのロールモデルのような存在になれたらと思っています。キャンバスに色を足すように、日本で生まれ育ちハーフだからこそ理解できること、理解しあうきっかけのような存在になることが自分の役割だと思っています。

子ども達の作品を見ると素直で自分より上手だなと初めは感じたけれど、自分の花を何度も見ていくうちに掴みどころがない色や、ミックスされた色味が、表現しずらいけれどミステリアスで何を考えてるのかわからないとよく言われる自分自身を表しているようで好きになれました。

「やさしさの花」の色を音に変えるシステムを使って出してみた音も知らない楽器の音だったり、幻想的で、さまざまな音が混ざっている様子が自分を表しているようで、愛着が湧いてきました。

大人になると漠然としたものを作る機会ってなかなかないし、型にはめられたものを作りがちだけど、やってみると結局自分らしさが作品にも出てくるんだなと実感しまし、最終的にすごく自分の花が好きになれました。色をのせて、キャンバスを折って開くだけだけど、実はそこに込められたメッセージがしっかりあって、アートワークショップは誰にでも得るものがある時間になると思います。

料理が好きなので、思い浮かんだのがスパイスでした。スパイスの中でも自分にとても近いものは辛いスパイスで、親しい友人や家族には「少しきつく感じてしまうことも素直に伝えるようにしている自分」を表しているようだなと感じています。

その背景には両親の影響が大きくあり、父が厳しく母が優しい、まさにアメとムチのような環境で育ったので、相手を尊敬し愛情があるからこそ厳しさも必要なやさしさだと思っていて、ちょっと冷たいように感じてしまうことも素直に言葉にして伝える人も必要だと思っています。

やさしさとは何か、言語化してみたことでより日常の中で意識することが増えました。コミュニケーションを必要とする仕事をしているので、相手の立場になって言葉で伝える手段を考えるようになりました。伝える優しさや相手の目線になってみるって大切ですよね。日常でも家族と一緒に居られる時間を大切にしようと思えたり、優しさを再確認できたことでより愛情を持って優しく接することができるようになりました。

再確認することによって心が穏やかになったし、イラッとしてしまったときに自分のやさしさの花をイメージしてそこに戻ることができる優しさの軸のようなものができました。言語化して、実際に作ってみて、自分のやさしさを可視化、言語化できたことで、優しさのコアを自分自身の中に持って意識して生活するようになったのが大きな変化でもありました。

やさしさとは、スパイス

「やさしさの花」を体験して

『やさしさとは、スパイス』

クリストファー

  • マイケル・クリストファー(モデル/日米ミックス)

    横須賀生まれ。18歳から24歳までをアメリカで過ごし、マサチューセッツ州立大学ソフトウェアエンジニア学部卒業後、現在は日本在住。アメリカで感じた白人優位社会や自分のアイデンティティ、差別に問題意識を持つ。自身の経験を生かして、子ども達にグローバルマインドを紹介する活動も少しずつ展開。

  • written by AKIRA ISHIBASHI

    神奈川県横須賀市出身。文化服装学院卒業後、渡米しニューヨークでアートとジュエリーを学ぶ。帰国後、ユニバーサルデザインのアクセサリーブランド「a Kiira Colors」を立ち上げ、デザイン製作の傍らワークショップ講師としても活動。2020年に難病SLEを発症し、難病当事者として多様性を受け留めて誰しもが持つ魅力を伝えるLITTLE ARTISTS LEAGUEの活動に共感しさまざまなコラボレーションをしている。